感染すると致死率100%の恐ろしい病気、プリオン病を知っているだろうか。
プリオン病とは、通常の感染症とは異なるタイプの神経変性疾患であり、主に異常な蛋白質が原因で発症する。通常の感染症は、細菌やウイルスが病原体となり、これらは遺伝情報(DNAやRNA)を持っている。しかし、プリオン病の原因となる「プリオン」は、異常な蛋白質であり、遺伝情報を持っていない。
プリオンは、正常な蛋白質の形を変えてしまう性質がある。正常な蛋白質は体内で特定の形をしており、その形が正しく機能するために必要である。しかし、プリオンはこの正常な形を異常な形に変えてしまう。この変化した蛋白質が増えていくと、脳にダメージを与え、神経細胞が壊れていく。この結果、記憶障害や運動障害など、深刻な神経症状が現れる。
代表的なプリオン病には、以下のようなものがある。
- クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD):脳に異常なプリオンが蓄積し、神経細胞が壊れることで急速に進行する認知症を引き起こす病気である。
- 狂牛病(BSE):主に牛に発生し、感染した牛の脳や神経組織が異常なプリオンで満たされる。この病気が人間に感染することもあり(変異型クロイツフェルト・ヤコブ病)、深刻な影響を及ぼすことがある。
プリオン病は非常にまれであり、現在のところ治療法が存在しない。予防策も難しく、病気の研究が進められているが、理解はまだ完全ではない。
狂牛病(BSE)
狂牛病(Bovine Spongiform Encephalopathy、BSE)は、牛に発生する神経変性疾患であり、異常なプリオン蛋白質が脳内に蓄積して神経細胞にダメージを与えることで発症する。症状は進行性で、初期には攻撃的な行動や運動失調、食欲不振が見られ、最終的には完全に無力になり、死に至る。
BSEの感染は、感染した牛の脳や脊髄を含む飼料を摂取することによって広がる。このため、飼料に異常なプリオンが含まれることで、他の牛に感染するリスクが高まる。人間がBSEに感染することもあり、その場合は変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)という神経変性疾患を引き起こす。vCJDは、感染した牛の肉や神経組織を含む食品を摂取することで発症し、深刻な症状を引き起こす。
BSEの予防と対策には、牛の飼料に他の牛の神経組織を使用しない規制、肉や内臓の検査、感染した牛の廃棄などが含まれる。これらの対策により、食肉業界や農業に大きな影響を与えたが、食の安全性が強化され、BSEの拡大が防がれている。
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)は、異常なプリオン蛋白質が脳内に蓄積し、神経細胞を破壊することによって発症する神経変性疾患である。CJDは急速に進行する認知症や運動障害、精神的変化を引き起こし、通常は数ヶ月から数年で重篤な状態になり、最終的には死に至る。
CJDには主に3つのタイプが存在する。散発型CJD(sCJD)は最も一般的で、特定の原因が不明で自然に発症する場合が多い。全体の約85%を占める。遺伝性CJD(fCJD)は家族歴があり、特定の遺伝子変異が関与しているタイプで、全体の約10%を占める。感染型CJD(iCJD)は異常なプリオンに感染することで発症し、医療機器の使用や変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)との関連が考えられる。全体の約1%未満である。
診断には、臨床症状の評価、神経画像検査(MRIやCTスキャン)、脳波検査、脳脊髄液検査などが用いられる。最も確実な診断方法は脳生検または剖検であり、病変が確認される。治療法は現在のところ存在せず、症状を緩和し、生活の質を改善するための対症療法が行われる。
予防策としては、医療機器の徹底的な消毒や交換が求められ、感染源として疑われる製品や組織の使用制限が行われている。CJDの研究は進行中であり、今後の治療法の開発や予防策の確立が期待されている。